※本記事は英語でもご覧頂けます:Travel and the Climate Emergency: Lots of Talk but Not Enough Action
旅行・観光業界は、他の業界に比べて、気候変動の影響を受けやすい業界といえる。人々の旅行目的地として選ばれることが多い新興国のエコシステムはぜい弱で、気候や自然災害に左右されやすく、特に沿岸部の旅行先は、気候変動や異常気象の影響を受けやすい。こうしたことから、旅行会社の3分の2が、自社ビジネスの回復力を高めるには、気候の影響へ対応できることが重要であると考えている。
また、旅行・観光業界は二酸化炭素排出の主な原因のひとつであり、同業界が排出量全体の5%から8%を占めていると考えられている。国際航空分野がパリ協定の対象外であることを考えると、その割合はさらに高くなる。
持続可能性の面では多少の進展が見られるものの、さらなる取り組みが必要
しかし、包装業界、小売業界、ファッション業界などの他の業界の企業に比べると、旅行会社では持続可能性への取り組みがそこまで進められていないのが現状だ。社会的、環境的および経済的な問題への対応を中心に据えた戦略を採用していると回答した旅行関係者の割合は58%であり、全業界平均の66%を下回った。
ただし、新しい旅行商品に持続可能性に関する特性や取り組みを反映させている旅行会社は53%に上り、2020年から2021年にかけて10%近くも増加したことから、持続可能性の分野においてはいくらか進展があったといえる。しかしながら、イノベーションや研究開発への投資レベルは、依然として全業界の平均に及ばない。目的主導型の旅行会社の数は、こちらも業界平均には届かないものの、2020年から2021年にかけて大幅に改善し、約10ポイント上昇して47%となっている。
持続可能性に関する取り組みの度合い:旅行業界vs全業界の平均(2021年)
Source: Voice of the Industry: Sustainability Survey
Note: Fielded in June 2021
強化される気候変動対策
2021年には、SDGs「目標13 気候変動に具体的な対策を」に取り組むようになった旅行会社が急増し、10ポイント増となる58%となった。これにより、環境への悪影響を緩和すべく、各社が気候変動対策に力を入れるようになったことがわかる。
国際観光市場における支出が75%減という驚異的な落ち込みを見せたことは、新興国や、雇用や機会を観光収入に大きく依存している観光地にとって特に痛手となった。それらの国や観光地にとっては、気候変動対策は復興のための重要な手段であり、地元のDMO(地域の観光産業の発展に携わる法人)や地域社会と協力して、安全で持続可能な旅行・観光業の再開を実現し、観光地における環境保全や、観光が文化的及び自然的資産に大きく依存している場合には生物学的多様性の保護をするためにも、欠かせないものとなっている。
SDGs「目標13 気候変動に具体的な対策を」への取り組みの度合い
Source: Voice of the Industry: Sustainability Survey
Note: Fielded in June 2020 and June 2021
言葉を並べるよりも行動を
旅行・観光業界における気候変動対策への意識は高く、同業界における経営幹部層の80%が、気候変動対策が自社のビジネスにとって「とても重要(Very important)」もしくは「極めて重要(Extremely important)」であると回答している。それにもかかわらず、ネットゼロエミッション達成を目指す戦略の実施においては他の業界に遅れをとっており、現在二酸化炭素排出量のネットゼロ化戦略を実行している旅行会社はわずか7%にとどまっている。この数値は、金融業界や自動車業界など、より言動が一致していると思われる他の業界に比べて低い。
旅行・観光業界は、単に言葉にしたり高い意識を持つといったステージを越え、1.5℃目標(世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃までに抑える)に沿った具体的な戦略を持って気候変動対策に取り組まなければならなく、環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏の「言葉ばかり(で、行動が伴っていない)」という苦言を受け止める必要がある。
実質的な行動よりもやり方などのスタイルが重視されがちな中、持続可能な変革を促進するためにはもっと何かできることがあると考えられており、旅行会社の72%が「自社の持続可能性への取り組みは改善できる」と認めている。
サステナビリティ戦略を実施している旅行会社に注目すると、企業からの発信されるコミュニケーションの要素を重視しており、70%が顧客にサステナビリティ戦略を発信している。他にも、半数以上(51%)がストーリー性のある魅力的なメッセージを使用し、24%がソーシャルメディアのインフルエンサーを起用するなどしている。なお、インフルエンサーを起用する割合は、業界平均の17%を上回っている。
ネットゼロエミッション達成に向けた企業のアプローチ方法(2021年)
Source: Voice of the Industry: Sustainability Survey
Note: Fielded in June 2021
COPへの高い期待
英国のスコットランドでは、パリ協定に続く、待望の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されている。
国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を2030年に達成するまで残り9年となり、地球温暖化問題への取り組みは、いまだかつてないほど重要な課題となっている。ホストであるスコットランドは、自国の観光局(VisitScotland)が気候非常事態宣言を行った、世界で最初の国である。
そして、Tourism Declares、The Travel Foundation、VisitScotland、国連世界観光機関(UNWTO)と共同し、「Glasgow Declaration on Climate Action in Tourism」(観光業における気候変動対策に関するグラスゴー宣言)が正式に発表される。この宣言は、観光業における移動に伴う二酸化炭素排出量が、2016年の水準から2030年までに25%増加すると予測されていることから、脱炭素化を促進し、科学的根拠に基づく目標や二酸化炭素除去への取り組みを尊重していくことを目的としている。
また、同宣言は、COVID-19収束後における責任ある復興に向けたOne Planetのビジョンと国連の持続可能な開発の枠組みの中に組み込まれ、観光業が回復力と耐性のある復興をするために、エコシステム、生物学的多様性、地域社会の再生を促進するものである。
旅行・観光業界における脱炭素化の重要性は極めて高く、同業界によるCO2排出量の測定と開示を促し、ネットゼロへ向けた戦略への切り替えを加速させ、旅行会社による炭素除去への取り組みを後押しすることが重要である。しかし、課題は山積しており、二酸化炭素の回収を行っている旅行会社はわずか10%、自社の二酸化炭素排出量の相殺に取り組んでいるのは3分の1以下(32%)にとどまっている。パートナーシップによる効力を活かし、COP26がネットゼロに向けた道にポジティブな変化をもたらすきっかけとなることに期待が高まっている。
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(翻訳:横山雅子)