※本記事は英語でもご覧頂けます:Top Five Global Shifts in Business Environments
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは、学習方法や仕事の仕方の変容、従業員への技能再教育、サプライチェーンの変換、そしてギグエコノミーの拡大に大きな役割を果たした。これらの変化はロックダウン期間中には必然であったが、将来的にも世界のビジネス環境の中で、極めて重要な役割を果たすものと考えられている。
コロナ後も定着するオンライン学習
パンデミックの影響で、対面式の教育は大きく妨げられ、大学や学生はオンライン学習への適応を余儀なくされた。また、ロックダウンによって人々がより自由に時間を使えるようになり、新しいスキル、特にデジタルリテラシーに対する需要が高まったことから、CourseraやedXといったオンライン講座のプロバイダーの人気が急上昇している。従来の大学も、オンライン講座の提供を拡大したり、より柔軟なハイブリッド学習を提供するようになるだろう。実際、世界経済フォーラムが2020年に実施した調査では、回答者の4人に3人近くが、高等教育が2025年までには対面式学習とオンライン学習を組み合わせたハイブリッド型になると予想している。
大学入学率と修了率 2020年
Source: Euromonitor International from UNESCO/Eurostat/OECD/national statistics
北米および西欧地域は、高等教育の入学者数では依然としてトップであるが、中途退学率の上昇により、修了率が低下している。また、企業と学生の双方が実務経験を重視するようになったことから、大学の学位を持つこと自体の価値が低下している。例えば、Tesla、Google、Netflix、Appleなど、特にエンジニアリングやIT分野の大手グローバル企業では、新入社員の大卒資格要件を撤廃している。
コロナ禍で浮き彫りになったワークライフバランスの重要性
ワークライフバランスについては、過去10年間、先進国の多くで、政府が残業時間に制限を課したり、企業が週の労働日数を減らすなどの改善が見られた。日本マイクロソフトは2020年に週休4日制を導入し、生産性が大幅に向上したと報告している。しかし、これは多くのアジア諸国とは対照的で、シンガポール、香港、韓国は、週当たりの労働時間が最も長い国々に挙げられている。2020年、シンガポールと香港では4人に1人が週49時間以上働いており、韓国ではこの数字が被雇用者の20%近くに達した。
国ごとに見る被雇用者の一週間当たりの労働時間 2020年
Source: Euromonitor International from International Labour Organisation (ILO)
労働時間を短縮する試みに加え、パンデミックをきっかけにリモートワークが世界中で加速した。当初はテレワークへの移行に消極的な企業もあったが、従業員の安全と業務の継続性を確保する必要性から、在宅勤務は欠かせないものになりつつある。ワクチン接種が普及しつつある中でも、4人に3人以上の従業員が週に3日以上のリモートワークを希望している。リモートワークの拡大は、ワークライフバランスの向上だけでなく、オフィスの賃貸料や光熱費、通勤費などのコスト削減にもつながると期待されている。
コロナ禍で高まる技能教育へのニーズ
過去10年間以上にわたって技術分野の卒業生数は減少しており、労働市場におけるスキルギャップは広がり続けている。しかし、各国の教育制度は硬直的であり、進化する労働市場のニーズに迅速に対応できていない。さらに、若者層は付加価値の高い分野の高等教育を選択する傾向にあり、その結果、先進国では未熟練労働者不足が起こっている。パンデミック発生および国境閉鎖の際、ドイツ、米国、カナダ、オーストラリアなど、移民労働者に大きく依存している国々では、製造業や建設業など労働集約的な産業に深刻な混乱が生じた。
COVID-19の発生により、労働力の需要が拡大したセクターもあったが、多くのセクターでは業務が停止された。このことが、政府および労働者の技能再教育、習得への投資を促した。2020年、世界の失業率は12.6%にまで上昇し、中でも若年層の雇用が最も急激に減少した。若年層を労働市場へ再び送り込み、仕事領域のシフトを促すため、多くの国がデジタルリテラシーや技術・ITスキルに重点を置いた労働者の再教育プログラムに投資している。
若者層の失業率 2015年と2020年
Source: Euromonitor International from International Labour Organisation (ILO)/Eurostat/national statistics
在宅勤務の普及により広がるハイスキル・フリーランサーの活躍の場
ギグエコノミーは、今後も未熟練労働者が中心となることが予想されるが、リモートワークは、高度なスキルを持つ専門家にもフリーランスの機会を提供している。スキルマッチングプラットフォームは、COVID-19の発生およびロックダウンによって失業率が上昇した際、旅行・観光業、飲食業などパンデミックで閉鎖されたセクターと、農業や配送業など需要が急増したセクターとの間で人材を再配置するのに一役買った。
雇用形態ごとにみる被雇用者人口の割合 2015年と2020年
Note: Inner circle represents data in 2015; outer circle represents 2020 data.
Source: Euromonitor International from International Labour Organisation (ILO)
熟練労働者のギグエコノミーの可能性に対する反応は鈍く、いまだに正社員雇用を好む傾向にある。しかし、自主隔離期間中にリモートワークの普及が進んだことから、雇用者と従業員の多くはオフィス以外の場所で働くことを継続したいと考えており、熟練専門家にとっては、知識労働者向けのギグエコノミーが大きな商機となりつつある。
オンライン市場の台頭とサプライチェーンの混乱より、自国近くに移転される生産拠点
2020年、世界のサプライチェーンは、多くの国での国境閉鎖、航空便の欠航、製造業の中断などによって大きな混乱に見舞われた。グローバル企業は、今後のサプライチェーンを支えるべく予防対策を講じ、事業の継続性を確保し、アジア地域における製造供給への依存度を下げるために、サプライチャネルの再構築と多様化を進めている。企業は、B2B(企業間取引)、B2G(企業対行政間取引)、B2C(企業対消費者間取引)それぞれの需要に対してより早く対応し、物流の混乱を最小化するために、生産拠点を自国に近づけようとしている。また、オンラインショッピングの拡大に伴い、消費者がオンライン購入した商品の高速配送を求めるようになるなど、迅速な物流への圧力が高まっている
オンラインで受注、発注する企業の割合 2040年
Source: Euromonitor International from UNCTAD, Eurostat
オンラインでの注文はコロナ禍の隔離期間中に大幅に増加し、今後もショッピング体験にとって重要な要素になることが予想される。例えば、インドネシアでは、2015年から2020年にかけて、オンラインで注文を受ける企業が16.7%ポイント増加し、2040年には全体の88.4%に達すると予想されている。同国では、オンラインショッピングの拡大にあわせ、インフラや物流機能への投資が積極的に行われており、オンラインで購入された商品のスムーズな配送に貢献している。実際、インドネシアは、Logistics Performance Index(物流パフォーマンス指標)において、2015年の55位(160か国中)から2020年には48位に上昇している。
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(翻訳:横山雅子)