※本記事は英語でもご覧頂けます:Future Evolution of the Beauty Industry
ビューティー・パーソナルケア業界は従来不況に強いとされてきましたが、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック下においては、消費に関わる経済的、法的要因に加え、人々の生活様式にまで影響が及んでいることから、人々の購買パターンやチャネル力学、美容習慣に変化が生じ始めています。これは、同業界が未だかつてない困難に直面していることを意味し、この流れは今後当面続くことが予測されます。エッセンシャル品(必需品)ではなく、裁量的な性質を持つ美容分野の多くは、COVID-19の不況下において影響を受けており、ロックダウン措置、店舗閉鎖そして旅行制限によっても大きく左右されています。
ユーロモニターのベースライン予測シナリオを見ると、世界のビューティー・パーソナルケア市場は、2019年に1.9%の成長を遂げたものの、2020年は実質ベースで2.0%縮小すると予測されています。また、ユーロモニターはCOVID-19がもたらす先行き不透明感を踏まえ、いくつかの将来予測シナリオを考えました。悲観シナリオ1では、2020年の世界のビューティー・パーソナルケア市場は2.7%縮小、悲観シナリオ2と3では、縮小率は4.0%まではいかない、としています。
図1 ビューティー・パーソナルケア 世界市場
Source: Euromonitor International’s Beauty and Personal Care Forecast Dashboard: Last updated 8 August 2020
Note:
Baseline: The latest annual forecast data based on a quarterly review.
Scenario 1: A more pessimistic outline than the baseline based on potential pandemic and related economic adversity, where there is a major second global pandemic wave in 2020, followed by a possible third wave in 2021
Scenario 2: A more pessimistic outline than Scenario 1 based on potential pandemic and related economic adversity, where there is a more significant second global pandemic wave in 2020 compared to the pessimistic 1 scenario, followed by a third and possible fourth wave in 2021, and large scale distribution of an effective COVID-19 vaccine or treatment is delayed into 2022-2023.
Scenario 3: A more pessimistic outline than Scenario 1 and 2 based on potential pandemic and related economic adversity where there are 3-5 global pandemic waves in 2020-2022 and large-scale distribution of an effective COVID-19 vaccine or treatment is delayed into 2022-2023.
パンデミック後の世界:残るのはどのトレンドか?
2019年のビューティー・パーソナルケア業界に影響をもたらしたトレンドの多くは、2020年とそれ以降もその影響を増幅させていくものと思われます。
・COVID-19のパンデミックにより、病気を回避し健康を維持することが人々の最優先事項となった現在、ウェルネスに関するミクロなトレンドは加速しています。消費者は「ナチュラル」を必ずしも良しとしなくなり、また一人ひとりが自分の肌の課題をよく理解するようになったことで、特定の原料が入った製品(例:防腐剤など)を一概に否定するのではなく、課題に応じて製品を選択するようになるなど、「クリーンな美」から「コンシャスな美」への移行が進んでいます。そして人々は、健康、安全、免疫、治癒力、そしてホリスティックなウェルネスといった言葉と結びつきが強いブランドや商品を探しています。
・加えて、チャネルの多様化及びデジタル化への取り組みは、今まで以上に重要になります。現在、Eコマースの急速な台頭を受け、ビューティー・パーソナルケア企業は、オンラインチャネルへのより恒久的な移行に備えています。実際、2014年から2019年の間、Eコマースを介したビューティー・パーソナルケアカテゴリーの売上は年間平均で19%成長してきました。店頭で商品を手に取って試す機会が減少していますが、それを補うかのようにデジタルツールの普及が加速しています。ビューティー企業はより良いバーチャル体験を開発する一方で、SNSやライブストリーミングといった、新たな顧客とのタッチポイントを確立することが必要になります。また、デジタルへの移行は、先行きが不透明で安全への不安が渦巻く現状況下において、商品の検索や美容アドバイス、情報交換・口コミをするためのオンラインプラットフォームやコミュニティーを構築する、より長期的な市場機会を意味するものでもあります。
図2 今後、COVID-19と同様のリスクが発生した場合に備えて
自社が講じるであろう対策は?
Source: Euromonitor International’s Voice of the Industry: Coronavirus Survey, April 2020, July 2020
・「サステナビリティの追求」から「パーパス(目的)の追求」への移行は、長期的な変化となるでしょう。パンデミック以前の世界でサステナビリティを推し進めていた要素は今日も引き続きあるものの、企業戦略の鍵はサステナビリティからパーパスに移りつつあります。COVID-19の感染拡大を受け、ビューティー業界は従来の生産ラインを手指用消毒剤に切り換え、世界的な品不足の発生に迅速に対応しました。サステナビリティがビューティー企業の間で今後も重要な意味を持ち続ける一方で、消費者はビューティー業界に対して「利益よりも人々を優先すること」を求めるようになります。また、人々が安全性、透明性、倫理的な調達を優先的に考えるようになるため、企業やブランドは、サプライチェーン全体を通して今まで以上に高い透明性を提示することが求められます。
図3 地域別に見るスキンケア製品分野における
サステナブルパッケージングの訴求内容 TOP5(2019年)
Source: Euromonitor International Product Claims and Positioning, 2019
2020年とその先を見据えて
アジア太平洋地域は、パンデミックに対するその整然とした対応が功を奏したこともあり、ビューティー・パーソナルケア業界にとって、今後も明るい材料であり続けるでしょう。同地域の市場は世界に先駆けて、一足早く回復を遂げると予想されています。しかし、第2波発生の可能性から、世界市場全体の回復は遅れるものと考えられています。世界のビューティー・パーソナルケア市場は2019年から2024年にかけて、年間平均1.5%の実質成長にとどまるものと見られており、2014年から2019年の間に年間平均5.0%の成長を遂げてきたことを考えると、同市場の成長速度は一気に鈍化することになります。
図4 世界のビューティー・パーソナルケア市場
カテゴリー別 年間平均成長率(CAGR)2019年~2024年
Source: Euromonitor International’s Industry Forecast Model: Last updated August 24, 2020
とはいえ、消費財産業が総じてパンデミックのマイナス影響を受けている中、ビューティー・パーソナルケア業界は、ノンエッセンシャルとされる消費財産業の中では比較的強い回復力を示しています。Eコマースにおける売上がマイナス影響を和らげている側面もあります。今後、目まぐるしく変化する市場環境の中、ビューティー企業はニューノーマルの世界でどのように舵取りをしていくかを考えなければなりません。