※本記事は英語でもご覧いただけます:The Path to Successful Innovation
本記事はResearch World ESOMARと共同執筆したものです。
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる世界的な危機は、未だかつてない規模の投資や加速するデジタル化、継続的なイノベーションを引き起こすなど、これまでの危機とは様相が大きく異なります。「ニューノーマル」を待つことではなく、「ナウノーマル(現在の常態)」の中で行動するというパラダイムシフトによって、企業は提供する主力サービスおよびビジネスモデルの再考を直ちに行いました。
なかでも消費財企業は、合理化や後回しされるべき分野の特定、製品ライン拡大プロジェクトの一時停止、パンデミックを受けて発生した新しい消費者ニーズへの早急な対応など、自社の製品・事業ポートフォリオについての決定を迫られました。2008年の世界金融危機の経験が裏付けるのは、先行きが不透明な時期にイノベーションに注力する企業は、イノベーションの規模を縮小し、経済の回復を待って再開した企業よりもより良い業績を残す、ということです。
イノベーション事業を拡大するには
それでは、企業やブランドが混乱の最中において、イノベーションを成功させるためには何が必要でしょうか?混乱時のイノベーション成功事例を基に作成されたユーロモニターの「ACT NOW(今行動に移す)」フレームワークによると、企業が新しいプロジェクト全てを大きな規模にするためには、以下の5つの柱(コンセプト)を創造的に考える必要があります。
ニーズ中心に(Needs Centered)
各国政府が一時的な封じ込め策を講じることを余儀なくされる中、消費者は自宅スペースの中で今まで通りの生活を取り戻そうとしています。このことは消費者習慣や価値観、人との関わり方に未だかつてない変化をもたらしました。お互い共感は出来るものの、人々が経験していることは、それぞれ異なります。そのため消費者を中心に考えることが、今まで以上に必要となっています。
パンデミックの波によって「生活に必要なもの」と「そうでないもの」に対する消費者の考え方が揺さぶられ続ける中、企業やブランドは今後、ますます消費者ニーズを中心に据えたの製品開発に重点を置くようになります。
目的主導型(Purpose Driven)
健康危機と経済危機が同時に発生したことが社会のもつれを浮き彫りにし、福祉や平等に対する人々の関心が高まっています。企業は必然的にソーシャルフットプリントを念頭に置いて行動するようになり、従業員の健康が優先事項に、そしてサステナビリティがその次の目的と位置付けられるようになりました。
パンデミックが発生すると、サステナビリティの目標はひとまず危機管理に取って代わられました。ユーロモニターが2020年6月に実施した「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:サステナビリティ」サーベイ調査によると、29%の食品飲料メーカーがCOVID-19の発生を受け、サステナブルな製品の開発または発売を中断したと回答しています。その一方で世界的企業の91%がパンデミックの最中に地域社会を支援し、51%が社会的な目的の実現に対する誓約を掲げています。
サプライチェーンが安定化するに伴い、世界の企業は、社会的目的の追求を自社のサステナビリティの目標の優先事項に掲げると改めて表明するようになりました。今日、環境課題に建設的に取り組む姿勢や、社会の団結を支援する姿勢を示す企業やブランドの姿が際立つようになります。
デジタルネイティブ(Digitally Native)
デジタル化は加速し、我々は予想した未来に5年早く到達しました。企業はハイテク化からデジタルネイティブ化に移行しており、サプライチェーンの管理から流通、マーケティングおよび人事まで、事業のあらゆる側面に影響が及んでいます。
消費者の間でも「まずは携帯で」という意識が育ち、購買決定も手元にあるデバイスで下されることが益々増えています。ユーロモニターが2020年4月に実施した「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:COVID-19」サーベイ調査によると、世界の消費者の59%が、「COVID-19のパンデミックの影響で、オンライン購入へ恒久的にシフトするだろう」と回答しています。同社は2020年の世界のEコマースの売上が、過去最高の2兆米ドルに到達すると予測しています。
今日、デジタル化はデータに基づく意思決定と自動化の推進に欠かせないものであると同時に、人々が求める高い水準の消費者体験を実現するものでもあります。
効率的に学ぶ(Lean Learning)
パンデミック混乱期のイノベーション作業は、「素早い試作と市場投入」という、多くの企業のイノベーションチームが長年苦労してきたコンセプトを実際に経験する機会をもたらしました。この9か月で我々が学んだのは、柔軟性と順応性を持たなければいけない、ということです。企業やブランドは顧客ニーズを優先し、手探りのイノベーションでも試してみるという、俊敏に行動に移す考え方によって、自らのポジションを維持しているといえます。
このような転換のいくつかは、多機能住宅へのニーズや消費者の懐事情に合わせて生まれている段階的なイノベーション回りで発生しています。アパレル製品の生産設備を個人用防護具(PPE)の製造に使うといった、より変革的なイノベーション事業も現れています。最も重要な要素は「時間」であるため、企業やブランドは可能な限り迅速に、尚且つ最小単位で市場投入が可能な製品・サービスをデザインしています。
企業は競争力を将来的に保ち続けるためにも柔軟なマインドを持ち、学びながら順応性を高めていかなければなりません。
金額に見合う価値(Value Focused)
状況は改善することが予想される一方で、消費者、企業、そして政府には多くの支払いが待っています。2008年の世界金融危機時を振り返ると、今後はディスカウントストアといった低価格帯の小売チャネルの拡大が見込まれます。2021年、世界のスーパーマーケットの売上が実質2.1%縮小することが予想される一方、ディスカウントストアは0.8%成長すると見られており、ディスカウントストアの大手Aldi(アルディ)は、英国国内に新たに100店舗開店することを発表しました。また、2020年6月、ロンドン市内でファストファッションのPrimark(プライマーク)の店舗営業が再開すると、店前には長蛇の列ができました。プライマークは2008年の世界金融危機時も売上を伸ばした企業のひとつです。
今後のイノベーションにとっての課題は、いかにしてその製品やサービスは対価に見合う価値があるか、どのような消費者ニーズに応え、どのような目的を達成するためのものなのか、を明確に伝えることでしょう。
イノベーションが復興を促進する
オンライン購入への移行が進む現在の状況は、必然的に新興ブランドよりも大手ECブランドにとって有利に働いています。そのことからも大手ECブランドは、消費者が求めているイノベーションの規模を拡大するのに適しているといえます。世の中が回復に向かう中、企業には「Act Now」アプローチをもってイノベーションを進めることが求められています。
本記事に関するより詳細な洞察については、ユーロモニターの無料ウェビナー『Innovating During Coronavirus: A Guide to Recovery and Business』をご覧ください。また、これら5つの柱(コンセプト)が自社の事業や製品分野にどのような影響をもたらすかについて、詳しい調査にご興味がある方はこちらまでお問合せください。