※本記事は英語でもご覧頂けます:The Shift to the Suburbs: Did Retailers Miss the Signs?
本記事の内容はRetail Diveのオンライン版に掲載されたものです。
2020年、米国では、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック発生を機に、「都市脱出(主要都市から周辺地域への移住)」が叫ばれるようになった。在宅勤務制度の普及によって物理的なオフィスに縛られなくなったホワイトカラーの労働者が、大挙して米国の大都市の中心部を離れ、郊外や小規模な都市に比較的安全な場所を求めて移住するようになるだろうと言われている。しかし、これまでのところ、都市難民が津波のように押し寄せるといった最も劇的な予測シナリオは、まだ実現されていない。
ニューヨークとサンフランシスコでは、2020年に大幅な人口流出が発生している。他のいくつかの大都市の郊外でも不動産市場が活況を呈しており、より多くの世帯が郊外に移住することで、大都市の人口減少が進むと推測される。しかし、ロサンゼルス、ヒューストン、フェニックスといった大都市の多くでは人口は比較的安定しており、都市脱出の予測シナリオは誇張されているように思われる。
「今後、COVID-19と同様のリスクを防ぐために、自社がどのような対策を導入または講じることを期待しますか?」という質問に対して北米の業界関係者が選択した回答の割合(%)
Source: Euromonitor International Voice of the Industry: COVID-19 Survey, fielded in October 2020
極端な都市脱出のシナリオが完全に実現することはないだろうが、COVID収束後の近い将来、いくつかの要因によって、都市部の人口増加に歯止めがかかることは間違いないだろう。その一つとして、リモートワークの増加が挙げられる。ユーロモニターインターナショナルが2020年10月に実施した『ボイス・オブ・ザ・インダストリー:COVID-19サーベイ』調査によると、回答した北米在住の業界関係者の70%が、今後、自社がリモートワークを拡大することを期待していることがわかった。この流れは、都市中心部よりも、郊外の人口を押し上げやすい。
米国における郊外の人口増加の高まりは、パンデミック発生前から始まっていた
ただし、米国市場における郊外在住の消費者の重要性は、COVID-19のパンデミックが混乱をもたらす以前から既に高まりつつあった。2008年から2009年にわたる金融危機の直後、多くのミレニアル世代が大都市に押し寄せ、都市化と、都市化に伴う小売トレンドを加速させた。しかしその後、ミレニアル世代の年齢が上がり、このトレンドを飲み込んでしまうような大きな郊外化の波が起こる。ブルッキングス研究所のWilliam Frey氏が米国国勢調査局のデータを分析したところ、米国の大都市周辺の郊外地域の人口は、2013年以降、都市中心部の人口よりも速いペースで増加している。
そのため、過去10年間の郊外地域における人口増加率は、大都市のそれを大幅に上回っているのだが、米国小売業界の企業の多くは、この傾向と正反対の状況を想定した経営を行ってきたように思われる。2020年までの数年間、多くの小売業者が、都市に住む比較的裕福なミレニアル世代を主なターゲットとし、都市中心部にショールームを開設したり、都市中心部での店舗の展開に注力してきた。一方で、郊外の店舗においては、必要なオムニチャネルのインフラ構築といった、重要な改善作業が見過ごされることも多かった。
郊外化が進む国で小売業者が生き残るには、進化することが不可欠
COVID-19により、このような都市中心のアプローチが近視眼的であることが露呈され、現在、多くの小売業者が、パンデミック以前から始まっていた郊外化の波に適応しようと必死になっている。このような状況から、企業は、今後店舗の候補地を探す際、郊外の小売環境をじっくりと検討する必要があるだろう。さらに重要なことは、小売業者が、デジタル販売における将来的な成長を下支えするために必要な流通センターや倉庫などのインフラを、郊外に重点を置いて構築することである。また、既存の郊外店舗については、店舗の駐車場を最適化してカーブサイドピックアップサービスが提供できるようにしたり、店舗の大部分をEコマース注文に対応するためのスペースに充てるなど、改造の検討も求められる。
「COVID-19のパンデミックが既存のトレンドを加速させた」という表現は、もはや常套句にようになっているが、こと米国国内における郊外への移住に関しては、これ以上ないほど的を得ている。小売業者が21世紀に成功しゆくためには、郊外に住む消費者が顧客基盤に占める割合がより大きくなる未来を想定する必要がある。
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(翻訳:横山雅子)