※本記事は英語でもご覧いただけます:APAC Gears Up for "Meta-Versical" Metamorphosis
「メタバース」というワードは、現在と将来のデジタルトレンドについて議論する際に、家庭内だけでなく大企業の役員室でもよく使われるようになった。ユーロモニターインターナショナルの「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:デジタルサーベイ」によると、アジア太平洋地域(APAC)の企業の3分の1が、今後5年間に拡張現実(AR)または仮想現実(VR)に投資する予定があると回答している。
消費者は既に、様々な体験を向上させるべくテクノロジーを積極的に活用し始めている。同社の「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ」によると、APACの回答者の3分の1は、ショッピング体験を向上させるために少なくとも月に1回はARまたはVRを利用していると回答しており、これは世界平均よりも高い。また、APACでは、ARまたはVRを利用したオンラインでの物理的体験の再現がさらに普及すると考えられており、「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:デジタルサーベイ」によると、同地域の業界関係者の半数以上が、これらの技術が今後1年間で自社ビジネスに影響をもたらすと予想している。様々な業界でこの分野への投資を増やそうとする動きが確認されており、特に高級ファッション企業や大手テクノロジー企業は、一般への普及を加速すべく道を切り開こうとしている。このような動きから、企業がAPAC市場でこれらの技術を実装するうえでヒントになるような事例も多い。
AR / VRを利用したオンラインでの物理的体験の再現が自社ビジネスに影響をもたらすとした回答者の割合
消費者のメタバース体験を向上させるべく、業界を超えて企業がしのぎを削る
「いかにテクノロジーに対応したブランドであるか」が、ブランドエクイティに密接に関連するようになるにつれ、あらゆる業界の企業がメタバースシーンに乗り出しつつある。バーチャルショールームは、物理的なショッピングジャーニーを再現するだけでなく、メタバースでのより没入的で魅力的な体験を提供することでコンシューマージャーニーを向上させ、感情的・衝動的な買い物を後押しすることができる。ユーロモニターの「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:デジタルサーベイ」によると、APACの業界関係者の48%が、バーチャルショールームが自社ビジネスに既に影響をもたらしている、もしくは今後1年間でもたらすだろうと予想しており、同地域ではAR / VR機能を活用したバーチャルショールームの設置にビジネス機会が生じているといえる。
高級品の本質とは強烈な価値を生み出すことであり、それはつまり、体験が企業・ブランドの核となることを意味する。有名なデジタル資産プラットフォームであるDecentraland(ディセントラランド)は、キュレーション型NFT(非代替性トークン)マーケットプレイスのUNXDと提携し、3月下旬にメタバース・ファッションウィークを行った。これには、Selfridges(セルフリッジズ)、Dolce & Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)、Tommy Hilfiger(トミーヒルフィガー)などが参加した。同イベントは、ニューヨーク・ファッションウィークやパリ・ファッションウィークといった物理世界のファッションウィークのイベントをオンライン上で再現しつつ、ランウェイショーに加え、参加者が楽しめるような没入型の空間や展示品を設置するなどした。非テクノロジー業界の企業がAR / VRの世界やメタバースの価値を引き出し活かすことに苦労する中、高級ファッション企業は一歩先を行っている。
メタバース・ファッションウィークの他にも、例えば韓国のテクノロジー複合企業であるSamsung(サムスン)は、ディセントラランドのプラットフォーム上でニューヨークの旗艦店を作成し、世界中の消費者がバーチャル体験に没入できるようにした。同社のメタバースストア「Samsung 837x」では、消費者は製品を試したり、サムソンの電子機器の購入や、バーチャルアバターを獲得・交換することができる。サムソンは、このバーチャルストアによってより幅広い人々にリーチできるようになり、消費者との関わりを深めることができるようになるなど、サムソンのブランドエクイティ強化にもつながっている。
メタバースに大きな可能性を見出すバーチャルツーリズム
旅行・観光業界は、メタバースの重要な特徴である没入型の体験に大きなチャンスを見出している。ユーロモニターの「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ」によると、旅行者は現実の世界での体験を強く望んでおり、世界の旅行者の77%が現実世界での体験に重きを置いていると回答している。
しかし、COVID-19に伴う旅行制限によって、世界中の旅行者のバーチャルツーリズムへの関心が高まった。APACにおいては、博物館やランドマークなどでバーチャルツアーを提供し始めた都市もある。例えば韓国では、西大門刑務所歴史館をはじめとした歴史的ランドマークがメタバースプラットフォームのZepeto(ゼペット)で再現されている。独房や食堂など、刑務所時代の多くの機能が再現されており、関心のある観光客は、物理的な場所では見られないような詳細なところまでバーチャル上で訪れ、体験することができる。
同様に、COVID-19の制限下でメタバースに資本参加した香港のローカルテーマパークOcean Park(オーシャンパーク)は、メタバースゲームプラットフォームThe Sandbox(ザ・サンドボックス)と提携し、バーチャル化した最初の遊園地となった。同テーマパークは現在、事業運営や戦略を大きく変えようとしている。この戦略的転換により、ブランドイメージの大幅な刷新とともに、バーチャルテーマパークでの没入型の体験やイベントを通じて、観光客との関わり方を再構築しようとしている。
メタバースに備えクロスアプリ機能を導入する中国企業
VR技術の主流化に伴い、中国企業は「メタ・レース」への足がかりを築きつつある。例えば、Tencent(テンセント)は、自社が展開するソーシャルメディアアプリ「QQ」にビデオゲームエンジン「Unreal Engine」を組み込み、メタバース基盤の整備に着手した。このアップグレードにより、QQアプリは今後登場するメタバース機能をホストし拡張するために必要なスペックを得たことになる。
ユーロモニターの「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:デジタルサーベイ」によると、中国のデジタルコンシューマー(インターネット環境のある消費者)の58%がAR / VRデバイスを使用したことがあると回答したのに対し、APACの平均は53%だったことから、中国の消費者は他のAPAC諸国と比べてAR / VRデバイスの使用に慣れているといえる。このような背景から、中国のテクノロジー企業は、APACの同業他社に先駆けてこの分野を開発することに躍起になっている。
これまでにAR / VRを使用したことがあるとした回答者の割合
テンセントは、メタバース基盤の構築だけでなく、WeChat(ウィーチャット)のユーザーが、これまで不可能だったAlibaba(アリババ)やTaobao(タオバオ)といった外部ショッピングサイトをアプリ上でリンクできるようにするなど、中国で人気の高いソーシャルメディアアプリ間の壁を取り払おうとしている。これは、「あらゆるビジネスがメタバースを利用し利益を得ることができる」という中国国内のセンチメントを助長し、同国のソーシャルメディアでトレンドにもなっている「万物皆可宇宙(あらゆる企業がメタバース技術を利用できる)」というワードを生み出した。これは、中国が、ユーザーが複数のプラットフォームをシームレスに行き来できるようすることで、メタバースをより簡単に利用できるようにし、1つのユーザー識別ツールだけで国内のメタバースのあらゆるメリットを享受できるようにしようとしていることを示唆している。
APACのメタバースはまだ育成段階だが、その価値を享受する企業は増えている
最新技術を導入することはブランドエクイティの向上につながる。特に、高級ファッション、観光、テクノロジー関連の企業がいち早くバーチャル世界へと転換する動きを見せたことは、人々の注目を集めた。このように、あらゆるタイプの企業が、メタバース上でのブランド、製品、サービスの売り込みと収益化に向けて動き出している。ユーロモニターの「ボイス・オブ・ザ・インダストリー:デジタルサーベイ」によると、APACの業界関係者の実に42%が、AR / VR技術が今後5年間で自社ビジネスに影響をもたらすと予想している。これは、多くの企業が技術的な部分で他社の一歩先を行くために潜在的なアプリケーションを模索していること、そしてメタバースにおけるビジネス機会が幅広い産業で生じるであろうことを示している。
現在、APAC市場は、メタバースから価値を引き出す力という点では、まだ初期段階にある。しかし、現在行われている様々な開発は、企業が今後、メタバースからより多くの価値を得るために役立つことになると考えられる。現在のインフラ整備を踏まえると、APACの企業は、メタバースへの移行をけん引し、新たなテクノロジー時代の先導役となるためには良い位置にいるといえるだろう。
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(翻訳:横山雅子)