生活費危機は、消費者行動に大きな影響を与えている。消費者は生活水準を維持するのに苦労しており、多くの人々においては、基本的なニーズを満たすことで精一杯だ。
2023年の世界の消費者トレンドTOP10のうち、「切り詰める消費者」と「エコで経済的」の2トレンドは、生活費危機がもたらした直接的な結果だといえる。
「切り詰める消費者」は、文字通り全てにおける出費を切り詰めている。現在、消費者は節約を第一に考え、支払う額で最大限のメリットを得たいと考えているため、安いものへの買い替えや買い控えにつながっている。本レポート内の「エコで経済的」トレンドでは、このような消費の削減や、持続可能で費用対効果の高い代替品(中古品やレンタル品など)への切り替えが、環境にどのような影響を与えるかについて考察している。
これらのトレンドと行動変容を理解することは、企業が自社製品、製品価格、マーケティング戦略を適応させ、競争力を維持すること、そして顧客にとって重要な存在でい続けるために役に立つ。なぜなら、消費者は次の不況に備えており、景気悪化時の消費者習慣が、今後も続く可能性が高いからである。
ここからは、「切り詰める消費者」および「エコで経済的」の2トレンドを支える3つの行動変容について、2023年以降も続くと予想されるものを見ていこう。
1. ディスカウントストアが最初の選択肢
所得減少と物価上昇を背景に、消費者がディスカウントストアを利用する傾向が強まっていることは、「切り詰める消費者」トレンドの代表的な例といえるだろう。
2022年、世界の消費者の31%がディスカウントストアの利用回数を増やした
従来のスーパーマーケットの戦略に停滞感が見られる中、ディスカウントストアは店舗を拡大し、様々な価格帯の商品ラインナップを増やしている。こうしたことから、ディスカウントストアを主要な買い物先として選ぶ消費者が増えている。
例えば、アルディ(Aldi)の英国およびアイルランドにおける最高経営責任者によると、同社は2022年夏、英国で150万人以上の新規顧客を獲得し、同国第4位のスーパーマーケットとなった。世界的には、モダン食料雑貨小売業の総売上高のうち、ディスカウントストアが占める割合は2016年の8.9%から増加し、2022年には10.6%に達したと見られている。
2022年 世界のモダン食料雑貨小売業の内訳
Source: Euromonitor International from trade sources/national statistics
ディスカウントストアは、以前は良いカスタマーサービスを提供するというイメージはなかったが、従来のスーパーマーケットとの価格競争が激化する中、顧客満足度を高めることが差別化ポイントになりつつあり、新規顧客の獲得につながることから、カスタマーサービスの向上に力を入れるようになった。例えば、アルディの「Twice as Nice」保証は、顧客が商品に満足しない場合、返金をおこない、なおかつ商品を交換するというものである。
2. もはやロイヤリティではない
生活費危機は消費者の優先順位に変化をもたらし、より多くの人々がブランド・ロイヤリティよりも価値を優先するようになった。つまり、ブランド品ではなくプライベートブランドであっても、最もコストパフォーマンスの高い商品を選ぶようになっている。「切り詰める消費者」トレンドを象徴するもう一つの例だ。
2022年、世界の消費者の24%がプライベートブランド品や低価格品を常用している(2021年は18%)
Source: Euromonitor's Voice of the Consumer: Lifestyles Survey (Jan-Feb, 2022)
プライベートブランドへの関心の高まりは、あらゆる製品カテゴリーで見られる。例えば、英国の小売業者アスダ(Asda)の自社プライベートブランドであるジャスト・エッセンシャルズ(Just Essentials)シリーズの製品は、大幅な需要増を受け、購入制限を設けざるを得なくなった。
しかし、今日の消費者にとって、金額に見合う価値は、その商品価値を評価するための要素の一つに過ぎない。品質、利便性、革新性、信頼性など、すべてをもって総合的に価値を判断するのである。
今日の消費者は、より高い価値がある製品を見つけたり、そうした製品の情報を得た途端、すぐにブランドを切り替える。彼らは、積極的かつ深くブランドにエンゲージする姿勢を見せる一方で、価格に見合わなかったり、自分の価値観に合わないブランドは躊躇なく切り捨てる。消費者が何に価値を見出しているのかを理解することは大切であるが、自社ブランドの価値を明確に伝えることも、顧客を維持するために非常に重要だ。
3. 代替品を重宝する
厳しい懐事情により、消費者はより手頃な価格の製品や代替品を探すようになった。代替品にはシェアリング、修理品、再利用、DIYといった、持続可能かつコスト削減が可能な選択肢が含まれる。「エコで経済的」トレンドの登場である。
ユーロモニターが2022年1月から2月にかけて実施した「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ライフスタイルサーベイ」調査によると、54%の消費者が、過去1年間に中古品を購入したと回答している。
中古品購入、シェアリングまたは交換の習慣:2019年‐2022年
Source: Euromonitor International Voice of the Consumer: Lifestyles Survey (fielded in January-February 2022, n=39,832)
消費者の購入頻度や購入量にも変化が見られる。車を運転しなくて済む自宅から近い店舗を選び、掘り出し物を探し、一度に多くの量を購入する代わりに購買頻度を下げたり、または購入頻度は高いが購入する量を下げたりしている。割引カードやキャッシュバックアプリの利用も増えている。家庭での作り置きや食費の節約、低価格ではあるが必ずしも健康的でないファストフード店での食事といった消費パターンも選択肢の中に含まれている。
しかし、家賃や住宅ローン、光熱費には代替品となるものがほとんど存在しない。厳しい物価高や生活費危機に対抗すべく、消費者は暖房の設定温度を下げたり、照明を暗くする、シャワーは温水でなく冷水を使うなどしているが、それらによる節約効果は極めて限定的だ。
生活費危機は、2023年の世界の消費者トレンドTOP10のうち、「切り詰める消費者」と「エコで経済的」の2トレンドを直接的に形成している。「ディスカウントストアの選択」、「ロイヤリティよりも価値の重視」、「代替品を重宝する」という3つの消費者習慣が、今後の購買決定に影響をもたらすだろう。
企業はこうした消費者行動の変容を理解することで現在、そして今後の経済状況に適応し、競争力を保つことができるのである。
生活費危機が企業および消費者に与える影響についてのより詳細な分析は、こちらのブログもご覧いただきたい。