※本記事は英語でもご覧頂けます:Global Consumer Trends 2022, Digital Seniors: Lessons Learned from China and Japan
中国と日本の60歳以上の消費者たちは、世界のどの地域の同世代の人々よりもテクノロジーを受け入れている。中国および日本の企業は、2022年の世界の消費者トレンドのひとつである「デジタルシニア」のニーズに応えるべく、創造的に既存のテクノロジーを応用し、カスタマイズしたサービスを提供している。
地域によって状況は異なるが、欧州や米州、そして他のアジアの国々の企業も、すでにその分野で成功を収めている中国および日本のメーカーの戦略に学ぶことができる。
デジタルシニアをターゲットにする企業にとって最も潜在性が高いのは中国
アジア太平洋地域は、世界最大の高齢者人口を抱える地域である。ユーロモニターインターナショナルによると、65歳以上の人口は2040年までに95%増加し、7億6700万人を超えると予想されている。この時点で、アジアの65歳以上の人口は、世界の他のすべての地域の同年齢層の人数を合わせた数よりも多くなる見込みだ。
地域別 65歳以上の人口(2022年と2040年)
日本の高齢者人口は拡大し続けており、2040年には65歳以上の人口が同国の全人口の35%に達すると予測されている。さらに、アジアで最も65歳以上の人口が多い中国では、2022年には同年齢層の人口は4憶1,300万人に上るとみられ、中国の同年齢層は、2040年までに実に1億7,400万人増加することになる。
ユーロモニターインターナショナルの「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:デジタルサーベイ」(2021年)によると、中国の高齢消費者は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが発生する中、欧米の同年齢層の消費者よりもデジタルテクノロジーに対して寛容であり、意欲的に受け入れる姿勢があることがわかった。2021年、中国は、スマートフォンを日常的に使用していると回答した60歳以上の消費者の割合が世界で3番目に高かった。
また、中国の消費者はデジタルリテラシーが非常に高く、これがスーパーアプリの普及を促進させていると考えられる。WeChat(ウィーチャット)やMeituan(メイトゥアン)などのアプリを使用すれば、ユーザーは支払い、コミュニケーション、オンラインショッピングなどをモバイルデバイスで簡単に行うことができる。
ユーロモニターインターナショナルの「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:デジタルサーベイ」(2021年)によると、中国の消費者の85%近くがWeChatを1日に複数回利用していると回答し、2番目に利用率の高い韓国の消費者の50%と比較しても明らかに多い。こうした中国の消費者の中でも、ベビーブーム世代では、実に80%以上がWeChatを1日に複数回利用していると回答している。しかし、シニア世代のデジタル化はいまだに限定的である。
WeChatを1日に複数回利用している消費者の多い国TOP10
Tencent(テンセント)、デジタルシニアのためにテクノロジーを簡素化
多くの高齢者は、未だに最新テクノロジーになじみが薄く、視力の低下により小さな文字を読むことができないといった問題もある。大手ハイテク企業のTencent(テンセント)は、こうした課題の解決を支援するために、微信(WeChat)プラットフォーム上に「The Old Kids」というミニプログラムを作成した。
同プログラムが提供する機能のひとつに読み上げ機能がある。高齢者が読めない、あるいは理解できない単語を写真に撮ると、ミニプログラムが自動的にそれらの単語を読み上げてくれる。また、ネット上のデマや詐欺を識別する機能もあり、高齢者がそのような虚偽広告に気づくよう、ラベル付けやフィルタリングを行っている。
デジタルシニア向け、高齢者に優しいユーザーインターフェース
中国本土のTaobao(タオバオ)、そして香港のHKTVMall(HKTVモール)は、それぞれの市場における大手Eコマースプラットフォームだが、各市場においてデジタルシニア向けサービスを向上させるため、高齢者向けのモバイルアプリを発表した。
両アプリの特徴として、大きめのテキストやアイコン、そして操作の簡素化が挙げられる。また、音声アシスタント技術により、音声で操作指示を出し、プラットフォーム上で商品を検索することができる。加えて、どちらも「Pay by others(他の人による支払い)」オプションがあり、チェックアウトおよび決済をスムーズに行うために、家族、友人、介護者が自分のアカウントと高齢者のアカウントをリンクさせ、代理で決済することも可能だ。高齢者にとっての使いやすさを重視したこうしたソリューションがが、アジアにおけるデジタルシニアたちのEコマース普及を促進させるだろう。
日本の高齢者と世界の学生を繋ぐ「Sail(セイル)」プロジェクト
2019年、株式会社Helte(ヘルテ)は、日本語を学びたい学生と日本の高齢者を繋げるコミュニケーションプラットフォーム「Sail(セイル)」を立ち上げた。
従来のオンライン授業とは異なり、日本語学習者は1対1のオンラインビデオ通話を通じて、経験豊富な日本語話者とダイレクトに繋がることができる。また、学習者は日本文化を学ぶことができ、高齢者は世界中の人々とバーチャルに出会い、教えることができる。ユーザーは、月額プランに加入することで無制限にアクセスすることが可能だ。「セイル」は、2021年末までに全世界で18,000人以上の加入者を獲得している。
また、ヘルテはデジタル機器を所有していない高齢者にノートパソコンを寄贈し、「セイル」の利用とともにインターネットに親しんでもらうことも促進している。このように「セイル」は、日本の高齢消費者がパンデミックの最中でも人とのつながりを維持することができる、意義深いサービスである。
デジタルシニアを惹きつけるためには
60歳以上のデジタルに熱心な消費者の取り込みについて、世界を大きくリードしているのは中国と日本の企業だ。
これらの企業は、高齢のエンドユーザーのニーズをよく考えながら、俊敏かつ創造的なアプローチを行っている。また、デジタルシニアがインターネットの世界を理解できるよう、彼らへのサポートや追加の支援の提供に重点を置いた戦略をとっている。
シニア層のためのデジタルインクルージョンの未来を形作るのは、使いやすいテクノロジー、様々なプラットフォームをまたいだシームレスなソリューション、そして対面でのコミュニケーションであろう。
最終的にデジタルシニアの心を掴むのは、シンプルなオンライン体験でしょう。拡大するデジタルシニア層を取り込み、成功を収めている他の企業戦略にご興味のある方は、『2022年 世界の消費者トレンドTOP10』レポート(無料)にてご確認ください。
(翻訳:横山雅子)