※本記事は英語でもご覧頂けます:Healthy Ageing: Golden Opportunities for the Silver Generation
本記事の内容は、Asia Pacific Food Industry July/August 2021 Editionに掲載されたものです。
アジア太平洋地域は、2040年までに65歳以上の人口が全体の16%に達すると予想されている。しかし、健康志向が強いこの年齢層をターゲットにした処方箋不要の健康食品は、同地域ではまだ限られている。また、同地域の消費者は年齢を重ねると、自らの健康にとって、筋力の維持やフィットネスの優先度が低くなる傾向がある。
アジア太平洋地域における年齢層別「健康」に対する認識、上位5つ(2021年)
Source: Euromonitor International Voice of the Consumer: Health and Nutrition Survey
Full question: What does “being healthy” mean to you? Select all that apply.
Note: Fielded Feb-Mar 2021, n=6,564 (Asia Pacific respondents above 18 years old only)
健康的に年を重ねたいと考える消費者にとって、食品が果たす役割は大きい。ユーロモニターインターナショナルが2021年2月に実施した『ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ヘルスアンドニュートリションサーベイ』調査では、必要なビタミンや栄養素をサプリメントではなく、食品から摂取していると回答した消費者は13%に上り、2019年の11%から増加が見られた。
免疫力を高める食品は、乳製品・乳代替品以外にも
予防的健康への関心の高まりもあり、ヨーグルトや牛乳などの商品を通して、プロバイオティクスといった成分の需要が促進されている。インドネシアとインドでは、「免疫力を高める」ことを訴求する商品の数が世界トップレベルで多い。両国の市場で売られているSKUの総数自体が多いこともその一因ではあるが、両国の加工食品(ベビーフードを除く)市場を見ると、全SKU数の中でも「免疫力を高める」ことを訴求する商品の割合が、比較的高いことがわかる。
Eコマース販売における「免疫力を高める」訴求を有する加工食品の商品数が多い市場、上位10か国(2020年、ベビーフードを除く)
Source: Euromonitor International Product Claims and Positioning
Note: E-commerce retailers only, Jan-Dec 2020, n=1,741,078 SKUs
2020年、アジア太平洋地域において、主に免疫力向上に良いとポジショニングしている食品(ベビーフードを除く)の売上高は、17億米ドル相当であった。一方で、乳製品・乳代替品においては、胃腸の健康に関する効果の方が重視され、免疫力向上は二次的な効果とされている。このことから、免疫力を求める消費者に対し、ブランドや企業がより効果的にアピールするためには、乳製品・乳代替品以外の商品カテゴリーで免疫力を高める成分を強化することがより有効であるといえるだろう。
やすらぎや精神的な安定をもたらす食品に高まる需要
あらゆる年齢層の消費者が、健康上の優先事項として「精神的な安定」を挙げているにもかかわらず、アジアでは精神的な安定をサポートする食品の市場はまだ開拓されていない。同地域では、集中力、パフォーマンス、記憶力の向上などの脳機能を強化し、脳の健康を支えることに重きを置いた商品は、乳幼児の栄養を対象としたものが多く、それ以外にはほとんど存在しない。こうした背景からアジアでの展開が比較的遅れている一方で、米国や西欧では脳の認知力を高めるヌ―トロピック(向知性薬)など、仕事や勉強のパフォーマンス向上を求める若年層を対象としたものが浸透している。
アジア太平洋地域における脳の健康や記憶力向上を主な効果とする食品の国別小売売上高の割合(2020年)
Source: Euromonitor International Health and Wellness
Note: *Food refers to Packaged Food excluding Milk Formula
2020年、脳の健康や記憶力向上に良いと位置付けられた加工食品(粉ミルクを除く)の売上は、世界全体で463億米ドルであった一方、アジア太平洋地域ではわずか8730万米ドルにとどまった。しかし、同地域ではGABAやL-テアニンなどを主成分として訴求した商品の開発が盛んに行われている。これらの成分は、心を落ち着かせたり、リラックスさせる効果があるものとして販売されており、包括的なウェルネスに取り組もうとしているメーカーが今後進出するであろうホワイトスペースになりつつある。
マインドフルな食事と気分の改善を目的に、クリーンラベルが注目を浴びる
60歳以上の消費者にとって、健康に対する認識は、他の世代より主観的になることが多い。また、すべての年齢層の消費者において、自然由来の食品を求める理由で最も多い2つは、食品の安全性や栄養上のメリットよりも、「自分にとって良い」もの、「自分がより健康的に感じられる」ものとなっている。これは、健康的な食品を求める消費者にとって、「天然」などのクリーンラベルが魅力的であることを示している。
地域別 健康に良い成分が天然に含まれている加工食品(2020年/2025年)
Source: Euromonitor International Health and Wellness
アジア太平洋地域における天然で健康に良い加工食品(全粒粉パン、ナッツ類、蜂蜜などの天然に含まれる食物繊維が多い食品)の売上予測は、世界的にも最も楽観的とみられており、絶対成長は全7地域中最大となる見込みだ。2025年には、アジア太平洋地域の天然で健康に良い加工食品の売上高は293億米ドルとなり、北米の総売上高に迫る成長が見込まれている。
健康的に年を重ねるための食品は、高齢者だけのものではない
健康的な生活とは、生涯を通して追及される肉体的にも精神的にも、そして感情的にも良好な状態で年を重ねることだと考えられる。アジア太平洋地域では65歳以上の人口が増加しているが、健康な状態で60代を迎えたいと願う30〜59歳の消費者も多いことから、メーカーはそういった比較的若い世代を対象に、健康的に年を重ねるための商品を設計する必要がある。
アジア太平洋地域における年齢層別の人口推移予測(2020年/2040年)
Source: Euromonitor International Population
免疫力や精神的な安定などに効果のある商品は、今後もあらゆる年齢層の消費者を惹きつけていくだろう。また、包括的に健康を促進する食品に含まれる、消費者の気分を良くする要素も、65歳以上の消費者を惹きつけるのに今後さらに重要な役割を果たしていくだろう。
世界各国・地域の加工食品業界の統計データや定性情報をお探しの方は、こちらまでお問い合わせください。
(翻訳:横山雅子)