本記事は、日本のアナリストが記した英語版記事の翻訳です。
アジア太平洋地域は実に多様だ。経済的にも、社会的にも、様々な市場を内包している。この地域でロイヤリティのプログラムを走らせようとしたら、この多様性を覚えておく必要がある。多様な市場のそれぞれの特異性を理解し、それぞれの市場の消費者のニーズに応えることは、消費者からのロイヤリティを高め、つなぎとめるにあたり、極めて重要だ。
デジタル化の加速が、アジアの消費者の争奪戦に拍車をかける
世界のデジタル化の波の中で、アジア太平洋地域は先頭を走っている。今後、その勢いはさらに加速するだろう。デジタルなつながりの強さは、ロイヤリティプログラムの可能性を広げると同時に、困難ももたらすことになる。
国・地域ごとに、デジタル推進度合いを示したユーロモニターの「デジタルコンシューマーインデックス2022」を縦軸に、「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー:ロイヤリティサーベイ」*1 で示された「エンゲージド・ロイヤリスト(積極的に関わる支持者)」の割合を横軸に取り、以下の表を作成した。「エンゲージド・ロイヤリスト(積極的に関わる支持者)」とは、ブランドに対して最も積極的に関わろうとする、ブランドへのロイヤリティの高い消費者セグメントだ。その結果、表では縦軸と横軸の間に、負の相関が認められた。つまり、よりデジタルなつながりの強い環境であればあるほど、ブランドとの関わりが薄いと言うことだ。
*1: ユーロモニターのVoice of the Consumers: Loyalty Survey。2023年1-2月に行われ、世界での総回答者は40,691名。なお、同社は他にも世界の消費者を対象に、ビューティー、ライフスタイル、サステナビリティといったテーマのサーベイ調査を毎年実施、発表している。
今日、デジタル環境が高度に整備された国や地域の消費者は、いまだかつてないほど多くのブランドや商品にアクセスすることができる。選択肢がそれほどに多いと、ブランドへのロイヤリティが低下するリスクが増大するのだ。
スマホの世帯所有率が、2022年にアジア太平洋地域では88%に、オセアニア地域では94%に達する中、情報はいつでもどこでも、消費者の指先からアクセスできる
引用元: ユーロモニターインターナショナル
アジア太平洋地域においてデジタル化がいっそう加速し、より多くの国々で消費者がデジタルなつながりを増し、個々のブランドとの関わりが薄れていきかねない中で、消費者とのつながりを保つことはますます難しくなる。
デジタルな購買と、ブランドロイヤリティとの間には、負の相関がある
ある国のデジタル化とブランドロイヤリティの程度との関連は、韓国とインドの2ヵ国を比べてみるとよくわかる。韓国は2022年の総小売額のうち43%がEコマース経由だった、アジア太平洋地域の中でも最もデジタル化の進んだ市場だ*2。その一方で、「エンゲージド・ロイヤリスト(積極的に関わる支持者)」であるとされた消費者の割合は比較的低かった。インドの状況は、それとは著しく異なる。デジタルコンシューマーインデックスによれば、インドはアジア太平洋地域の中で最もデジタル化が遅れている国の一つであり、「エンゲージド・ロイヤリスト(積極的に関わる支持者)」の割合は対照的に最も高い国だ。
*2: ユーロモニターのRetail(小売産業)データによる。
インドの小売概況はユニークだ - 2022年の段階でも、総小売額の49%は、キラナと呼ばれる露店や道端の店を含む、小型ローカル食品雑貨店(small local grocers)経由だった
引用元:ユーロモニターインターナショナル
小型ローカル食品雑貨小売店(small local grocers)での買い物は、店主と会話を交わし、個人的な関係が築かれることで、消費者と店とのつながりを強化させる。こういった店の品揃えは豊富とは言えないことも多く、競合製品が店舗にないがゆえに、店舗にある特定のブランドへのロイヤリティが高まる結果となる。
各地域の特性にフィットしたロイヤリティプログラムが生まれている
このように多様な小売環境の中で、ロイヤリティプログラムは、よりローカル化が進んでいる。例えばインドでは、インド国内の統合決済インターフェース(UPI)による即時決済システムを活用したリワード(報酬)プラットフォームを提供する国内企業のZitharaが、2022年にBharat Loyalty Programを立ち上げた。このプログラムは、国内の小規模企業向けにUPI準拠のQRコードを提供する、コスト不要・非中央集権型・スマホネイティブのロイヤリティプログラムだ。消費者はそのQRコードをスキャンすることで、Zicoinというロイヤリティポイントを受け取ることができる。キラナなどの小規模事業者は、ロイヤリティプログラムを構築する資金もITインフラもない。しかし、Bharat Loyalty Programのような新しい仕組みがあれば、これまでにロイヤリティプログラムを使ったことのない消費者層にも効果的にアプローチできる。ブランドロイヤリティが高く、購買行動において「つながり」を強く持つ消費者層の囲い込みにつながる。
アジア太平洋地域の消費者向けのロイヤリティプログラムでは、ローカライゼーションが必須である
緊密に結び付いている「ローカライズ」と「パーソナライズ」という二つの概念が、アジア太平洋地域の小売業界でより重要になってきていることが示唆しているのは、消費者は常に自分の好みにあった商品やサービスを求めているということだ。「ボイスオブザコンシューマー:ロイヤリティサーベイ」*1 によれば、ロイヤリティにおいて影響力の大きな項目を問う設問で、11ある選択肢のうち「自分に必要なものをレコメンドしてくれる」は、5番目に大きな要素だった。ロイヤリティプログラムのなかでも、パーソナライゼーションが重要視されているであろうことがわかる。
アジア太平洋は非常に多様かつ複雑な地域で、同じスペックのロイヤリティプログラムが全体に有効であるような単純な地域ではない。それぞれの国や地域の小売業界に独自性があり、文化・経済・人口動態もまちまちだ。だからこそ、パーソナライゼーションが、この地域へのローカライズ戦略の重要な一端を担うことになる。そのことを肝に銘じ、消費者それぞれのニーズに応えられるようにロイヤリティのサービスを提供できるブランド、小売業者やロイヤリティプログラム事業者が、消費者との間に強い絆を築くことができるだろう。
アジア太平洋地域のロイヤリティについての詳細は有料レポート Elevating Engagement: The Loyalty Landscape in Asia Pacific をご参照ください。また、 Building Brand Loyalty in Latin America ではラテンアメリカ地域のロイヤリティについて知ることができます。Next-Generation Customer Loyalty はよりイノベーティブなロイヤリティのコンセプトについて紹介しています。