※本記事は英語でもご覧頂けます:European Super League: Sizing the Impact a Breakaway League Would Have on Football
欧州スーパーリーグ(European Super League、以下、ESL)は、欧州のビッグクラブ15チーム(内12チームの参加が正式発表されていた)が参加し、既存の欧州サッカー連盟(UEFA)主催のチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに代わる、新たな平日の試合となるべく創立された。しかし、ファンや選手、政府、その他の主要なステークホルダーたちからの厳しい監視と圧力により、計画は早々に頓挫することとなった。
ESL設立の目的は、欧州のクラブサッカーのあり方を変えることであった。プレミアリーグ、ラ・リーガ(リーガ・エスパニョーラ)、セリエAの上位チームから選ばれた12チームは、経済的な持続可能性への懸念を主な理由のひとつに上げ、既存のUEFAチャンピオンズリーグやUEFAヨーロッパリーグに対抗する、一部のクラブのみで行われる独自リーグへの参加合意を表明した。この発表には多くの人が反感を抱き、運営機関などからの制裁を受ける恐れがあったため、ほとんどのクラブが急いで撤退を発表した。ユーロモニターのスポーツ業界データベースと独自の算出方法によるクラブ指数データを基に、同プロジェクトが欧州国内リーグにもたらしたであろう、潜在的な混乱の規模を推測する。
クラブ指数データ
ユーロモニターのクラブ指数は、世界1,000以上のスポーツチームの商業的な能力を数値化したものである。同指数は、チケットの売上や観客動員数、過去の対戦試合における勝利数、そしてマクロ経済指標など、様々な指数を用いて算出され、既存および将来のスポンサーにインサイトを提供するために同業界内で広く活用されている。 ここでは、ESL参加を発表したクラブの強みとともに、同構想が目論みどおりに進んでいた場合、他の国内および大陸の大会にもたらしたであろう喪失も見ることができる。
Club (A-Z) | Domestic League | Club Index Rank in Domestic League | Club Index Rank in World Football |
AC Milan | Serie A | 3 | 19 |
Arsenal | Premier League | 2 | 5 |
Atletico Madrid | La Liga | 3 | 13 |
Chelsea | Premier League | 6 | 10 |
Barcelona | La Liga | 1 | 2 |
Inter Milan | Serie A | 2 | 15 |
Juventus | Serie A | 1 | 9 |
Liverpool | Premier League | 3 | 6 |
Manchester City | Premier League | 4 | 7 |
Manchester United | Premier League | 1 | 1 |
Real Madrid | La Liga | 2 | 3 |
Tottenham Hotspur | Premier League | 5 | 9 |
Source: Euromonitor Club Index 2020
ESLによる影響が最も大きいであろう英国
プレミアリーグ強豪6チームのESL参加とそれに続く撤退の発表を受け、最も大きな衝撃を受けたのは間違いなく英国であった。
世界的な強豪クラブであるManchester United(マンチェスター・ユナイテッド)は、パンデミック前の英国国内における平均観客動員数は最も多い7万人以上、ソーシャルメディアで同クラブのアカウントをフォローするファンの数も1億5000万人以上に上り、圧倒的に多い。試合での成績がクラブの規模や魅力を必ずしも反映していなくても、ロンドンのクラブがESLの中で重要とされているのは当然といえる。例えば、ロンドンでArsenal (アーセナル)の試合を観戦する際のチケットの平均価格は、リーグ内の他クラブと比べてかなり高く、Leicester City(レスター・シティ)などのチームと比較すると2倍以上にもなる。
2020年、英国の強豪6チームのスポンサーは平均31社だった。
プレミアリーグ:試合開催に伴うクラブの業績とソーシャルメディアフォロワー数の多さ
*縦軸は試合チケット販売総額(単位は百万USD)、横軸は平均観客動員数(単位は千人)、バブルチャートの大きさはソーシャルメディアのフォロワー数を示す
スペイン・ラ・リーガでは3つのチームが観客動員数全体の37%を占める
スペインの強豪であるFC Barcelona (FCバルセロナ)、Real Madrid(レアル・マドリード)、Atletico Madrid(アトレティコ・マドリード)は、創設よりESLへの参加を表明した。パンデミック前の同3チームの合計観客動員数は377万人で、ラ・リーガ全体の約37%を占める。
ソーシャルメディアのフォロワー数については、多くのクラブが世界のファンよりも地元のファンに頼る部分が大きい中、レアル・マドリードとFCバルセロナは、世界中に膨大な数のフォロワーを抱えている。
ラ・リーガ:試合開催に伴うクラブの業績とソーシャルメディアフォロワー数の多さ
Source: Euromonitor Sports. Note: The size of the bubble represents the social media following as of December 2020. Matchday data as of 2018-19.
*縦軸は試合チケット販売総額(単位は百万USD)、横軸は平均観客動員数(単位は千人)、バブルチャートの大きさはソーシャルメディアのフォロワー数を示す
また、ラ・リーガの小規模なクラブは、この強豪3チームとの定期試合に大きく依存している。例えば、2018-19シーズンのCD Leganes(CDレガネス)は、アトレティコ・マドリード、レアル・マドリード、FCバルセロナ戦のホームゲームにおいて、最大観客動員数と100%のチケット完売率を記録した。ただし、スペインのESL加盟3チームの平均スポンサー数は26社で、英国の強豪6チームより少ない。
イタリア・セリエAのリーグ内に横たわる大きな商業的格差
Juventus(ユベントス)、Inter Milan(インテル)、AC Milan(ACミラン)もESLに加盟を表明した。ACミランとインテルはともに、2018/19シーズン全体でセリエAの中で唯一、100万人を超えるファンを動員している。
ユベントスのチケット価格はリーグ内で最も高く(63米ドル)、他のAtalanta(アタランタ)などのチームのチケット価格(26米ドル)よりもかなり高額である。
同3クラブは、リブランドからエンターテインメント企業との提携まで、より広く世界中の人々にアピールするための動きが注目を集めており、これまでも話題に上がってきた。ユベントスのソーシャルメディアのフォロワー数は1億人を超えており、セリエAの他チームのフォロワー数が100万人に満たないことと比べ、その差は歴然といえる。
2020年には、イタリアのESL加盟チームのスポンサー数は平均34社で、スペインやイギリスで加盟を表明したチームのそれを上回っている。
セリエA:試合開催に伴うクラブの業績とソーシャルメディアフォロワー数の多さ
Source: Euromonitor Sports. Note: The size of the bubble represents the social media following as of December 2020. Matchday data as of 2018-19.
*縦軸は試合チケット販売総額(単位は百万USD)、横軸は平均観客動員数(単位は千人)、バブルチャートの大きさはソーシャルメディアのフォロワー数を示す
欧州サッカー界のすべてのステークホルダーにとって先行き不透明な未来
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが、スポーツ業界にもたらしている影響は非常に大きい。欧州サッカー界は、パンデミック収束後の回復の兆しが見えてきた中にあっても、ファンやスポンサーなどの主要なステークホルダーの間では不透明感が拭えない。経済的な持続可能性がサッカー界の継続的な課題である以上、この不透明さを乗り越えるためには客観的なデータが不可欠である。
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(翻訳:横山雅子)