高インフレに圧迫される消費者とファッション業界
世界の大半の地域では高インフレが生活費を押し上げている。また、定期的に発生する経済ショックによって世界の消費者は、将来に対して不安を感じている。こうした中、消費者の多くは、予期せぬ出費に備えて無駄な支出を抑え、貯蓄をするようになると同時に、より安価なブランドや割安な販売チャネルを利用するようになった。また、彼らは、自身の予算の中で商品を入手するためにリペア、リセール、リサイクル、レンタルといった代替方法も自らの選択肢として考えるようになっている。
特にファッションビジネス界は、その逼迫を感じており、原材料から輸送、保管、賃貸などの運営費に至るまで、生産コストの上昇にもがいている。また、消費者の買い控えを懸念し、高騰するコストを消費者に転嫁することに苦悩している。そのため、ファッションビジネス界の関係者は、過去1年以上にわたり、利益率の悪化に苦しんできた。
生活費危機によって、持続可能な行動を余儀なくされる消費者
エコ訴求の商品は値段がより高く、それがサステナブルな消費者行動の妨げとなってきた。しかし、インフレが続いている現在、サステナブルな行動を取ることが、消費者の懐にも優しいことになりつつある。
消費者たちは、リペア、リセール、リサイクル、レンタルといったグリーンな消費行動を取るようになった。実際、消費を控える、または削減するというコスト効率が良い選択肢は、結果として持続可能性を高めており、このことは、ユーロモニターインターナショナルの「2023年 世界の消費者トレンド」の中でも「エコで経済的(Eco Economic)」トレンドとして言及されている。
全世界の回答者の約4割が「買い替える代わりに修理して使う」と回答
このような状況の中、ファッション企業は、消費者からのコスト削減のニーズに対応しながら、ブランドエンゲージメントを維持しなければならない。こうした背景から、ファッション業界全体が変化を遂げており、企業は、特に嗜好品への支出に慎重な、今日の消費者にとって意味のある存在でい続けるためにも、自分たちがもたらす価値を伝える必要に迫られている。そのため、利益を越えて、持続可能性を大切にし、目的を示すことが、消費者の共感を得るためにますます重要になりつつある。
ビジネスモデルの転換は、規制当局からの圧力の高まりと共に
「より持続可能なファッション業界」へのシフトは、高まる消費者意識への対応だけでなく、EUを始めとする規制当局からの圧力の高まりも関係している。実際、「持続可能な循環型繊維製品のための欧州連合(EU)戦略」は、法律によって、繊維製品をより耐久性があり、修理、再利用そして、リサイクルが可能なものにすることを目指している。こうした持続可能性に関する規制の整備は、世界の他の地域でもすでに進んでいる。
いくつかの例を挙げると、英国ではESG関連情報の開示が幅広い対象企業に義務付けられている。米国では、カリフォルニア州の「衣料労働者保護法(Garment Worker Protection Act)」、ニューヨーク州の「ファッションの持続可能性と社会的説明責任に関する法律(Fashion Sustainability and Social Accountability Act)」、「連邦生地法(The Federal Fabric Act)」などが、業界における規制の大幅な転換を示している。このような状況において、企業は持続可能性へのコミットメントを示す必要に迫られており、さもなければやがて労働、環境規制リスクに直面することになる可能性がある。
消費者に企業価値を伝えるために、持続可能性を小売業に組み込む
消費者の意識や規制が変化していく中で、ファッション企業は、実店舗での販売やEコマース事業を含め、事業全体を通じて持続可能性を高める努力を示す必要性をますます感じている。こうしたファッション企業たちは、自社の販売チャネルを通じて、消費者達に、お金を節約すると同時に環境への配慮を高める方法を伝えながら、ブランドエンゲージメントを維持しようとしている。
そのため、衣服や靴のリペアショップを提供する企業や、リセールやレンタルのオプションを開始する企業が増えている。最近の例をいくつか挙げると、ZARAなどを保有するスペインのInditexは、コスト削減と二酸化炭素排出量の削減、過剰消費の抑制を目的として、オンラインで注文した商品を返品する際、店舗で返品しない限り、顧客に返送料金を請求するようになった。また、ZARAの店舗に設置されたリサイクルボックスに、どのブランドの服でも不要になった服を入れることができる仕組みを導入した。これは、H&M、Marks & Spencer、Mango、Uniqloが近年立ち上げたリサイクル・スキームに続くものである。
また、Alfonso Dominguezは、主要市場であるスペインでレンタルサービスを開始した。小売企業のCencosud Paris.clは、VestuaやNostalgicなどのブランド中古品のアグリゲーターと共に、パリのParis店舗にて中古品の売買、レンタル、修理を行っている。量販店のPrimarkは、英国の一部店舗でビンテージ古着コーナー「Worn Well」をコンセッション方式で立ち上げた。この計画はまだ試験段階だが、成功すれば同社の店舗ネットワーク全体に展開される可能性がある。
また、2021年5月に「世界初、レスポンシブル(責任ある)ブランドのための百貨店」を立ち上げたデンマークの小売業者Censuumは、オンライン発の持続可能性を重視するブランドのみを在庫とし、現在、DSCとパートナーシップを結び、18のショッピングセンターにコンセプトストアをオープンしている。
消費者に人気のリサイクル、リペア、リセールサービス
2023年、ファッション小売企業にとって持続可能性の優先度が高まる中、消費者の関心の的となっているリサイクル、リペア、リセールサービスの展開が盛んになっている。
世界の回答者の55%が、中古品を購入したことがあると回答
リサイクル、リペア、リセールサービスは今後も拡がりをみせることが予想され、もはや標準的なことになる可能性がある。企業にとっては、循環型企業として信用度を高めるだけでなく、これら「セカンダリー市場」が生み出す利益の確保につながる。また、近い将来、テクノロジーの進歩によって、リサイクル繊維を使用した「リバースソーシング」が実現した暁には、原材料の供給源となるであろう。
ファッション小売業とサプライチェーンにおける変革の原動力としての持続可能性については、『Shifting Channels in Luxury and Fashion』レポートをご覧ください。
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